同人活動などで絵を描く力が上がってくると、「イラストレーターとして絵を受注してみたい」という気持ちが湧き上がってきたり、Twitter経由などで実際に「絵を描いてくれませんか」とお願いされたりします。
この時、実際に絵を描いたことがない人と我々のような(ちょっとでも)絵を描いたことがある人で認識の差が生まれます。
その最大の問題が「依頼人は自分のイメージを正しく伝える方法を知らない」です。
依頼人は「かわいい絵を描いてください」という表現で十分だと思っていたりするんです。
これが実際にはほぼ丸投げであることを理解していません。
とはいえ、こちらから「もっと細かく設定を教えてください」と言っても彼ら彼女らは何を答えていいのかわからないなんてことが多いです。
どうすればいいか、私の方法を紹介します。
目次
依頼人の持つイメージはぼんやりしている
絵描きではない人たちは、脳内にキャラクターを明確に思い描くという練習をしていないので、実際に「この子」というキャラクターを持っていないことが多いです。
だから言語化することがとても難しいです。
ただし、それはこちらに100%委ねるという意味ではありません。
出来上がってから「うーん、ちょっと違うんすよね」なんて言い出したりします。
これを回避するためには、描き出す前にイメージのすり合わせをする必要があります。
回答テンプレートを持っておこう
依頼人にイメージを伝えてもらうためには、依頼人自身がどれだけイメージを固めているかによって以下のようなタイプのテンプレートを作っておくと便利です。
・選択式
・穴埋め
・フリー回答
上から順に自由度が上がりますが、イメージが固まっていないと回答するのが大変になります。
それぞれ簡単に説明していきましょう。
選択式
こちらが回答を用意してしまうパターンです。
たとえば髪型は?の問いに「ショートボブ」「ショートハネ」「ロングストレート」だとか「黒」「赤」など色を答えてもらったり、キャラクターの性格は?の問いに「さわやか系」「引っ込み思案系」などと自分(描き手側)が描きやすい設定を並べておくという方法です。
依頼側としても「この中ならどれがいいだろう」と考えるほうがゼロから説明するより簡単です。
この方法の隠れたメリットは「自分が苦手とする特徴を選択肢に盛り込まないことで得意分野で勝負ができる」という点です。
苦手を持たずオールマイティに描けるのがベストですし、そうなれるように練習をするべきではありますが、仕事としてイラストの依頼を受けているいわゆる「本番」では可能な限り自分の得意な絵で勝負したいところです。
穴埋め
選択肢は用意しないで、問いを細かく用意する方法です。
髪型は?髪の色は?目の色は?身長は?性格は?などなど。
※もちろん矢継ぎ早に質問するのではなく、箇条書きなどで回答欄を開けておいた方が圧迫感がなくなります
依頼人がある程度イメージを持っていてどう答えていいかを知らない場合に有効な方法です。
フリー回答
こちらから特に設問などをせず、自由にイメージを語ってもらう方法です。
ゲームなど、イラストを使う場が決まっているのであれば、そこでの立ち位置やどのようにストーリーにどう関わるのかなど、依頼人としても伝えたいことがあるかもしれません。
選択式や穴埋め式では伝わってこないイメージを受け取ることができます。
「他の漫画で言えば?」という質問を上手に使おう
「既存のキャラクターで言えばどんな子?」という質問は、便利ではありますが著作権などについて依頼人に正しく理解してもらう必要があります。
当然ながら、まるっきり同じキャラクターを描くことはできませんので、既存のキャラクターの何を抽出するかというのが重要です。
「〇〇というキャラクターのようなイメージで」と言われた際に依頼人がその既存のキャラクターの何を重視しているのかがわからないこともあります。
その場合、上記で紹介したような選択式・穴埋め式のテンプレートで「依頼人が魅力的だと思う既存のキャラクターの特徴」を洗い出してもらうのがいいでしょう。
ラフで問う
上記のイメージを受けた後は提出すべき清書版ではなくラフで「これでいいか」を再度確認しましょう。
ラフはできれば3枚がいいです。
2枚は依頼人の要求を全て受け入れたもの、そして残りの1枚は「そういう条件(依頼)ならこういうのはどうだろう?」という自分の提案です。
自分が得意とする髪型や体型などがありそのほうが上手に描けるというのなら、もしかしたら依頼人側もそれを求めて依頼してきているかもしれません。
依頼人のイメージとは少し離れていても、「そうそう!こういう絵が欲しかった!」と言ってくれることが(極まれに)あります。
なお、ラフでOKが出たら線画、塗りへと進んで行きますが、リテイクを少なくしたいのならその全ての過程で「ここまでこんな感じですがどうですか?」とお伺いをするのがオススメです。
最後に
会社に所属するイラストレーターなら、依頼人との意見のすり合わせは自分がやる必要のない業務でしょう。
ですがフリーランスならば依頼人との交渉も自分でやらなくてはなりません。
そして依頼人の大半は自分で絵が描けないから依頼してきます。
依頼人の多くは、イラストを描くこととデザインを考えることの境界を知らないだけでなく、自分にもイメージがあるのにそれをうまく伝えることができません。
このすり合わせをサボると、一生懸命描いたのに「なんか違うんだよなぁ」というざっくりとした理由でリテイクになったりします。
依頼人の中には「絵なんて数分でできちゃうんでしょ」くらいに思っている人がいます。
また、「絵が描ける人」は何の苦労もなくサラサラっと何枚でも量産できるのだと勘違いしていたりもします。
そしてさらにキャラクターの外見と内面が一枚絵でもリンクしているという事実を知らない人もいます。
それらの勘違いにより「リテイクを何度しても負担にならない」という悲劇を生みます。
もちろん依頼人もリテイクを繰り返して完成を遅らせたいわけではなく、よりよいものを追求しちえるだけです。
ですので依頼人と自分(イラストレーター)でのイメージの共有は重要です。
依頼人からわかりやすいイメージを引き出し依頼に沿った絵を描けるように、自分なりの質問方法を持っておきましょう。
私は今回紹介した3パターンを使う事が多いですが、これは絶対にそうしろという話ではありません。
ふんわりとしたイメージだけでゼロから描いた方が筆が乗るという人もいるでしょうし、髪型などを指定されすぎるとうまく描けないという人もいるかもしれません。
自分が描きやすいように依頼者を誘導する(イメージが固まりきらないうちにこちらの得意なキャラクター群に誘導する)のもイラストレーター側の手腕と言えるかもしれません。
どちらにせよ、快適なイラスト受注は描く前の依頼の段階で決まります。
自分なりの方法を模索していきましょう。