毎年、いえ小さな炎上も含めれば毎月のようにトレスが炎上しています。
そのことから、絵を描いたことがない人は「トレスは悪」と思っているケースが多く感じます。
さらに、イラストを描き始めたばかりの方の中にも「トレスは何があってもやってはいけない」と思い込んでしまったりしています。
違います。
トレスが問題なのは、人の作品をパクって自分の作品として発表してしまうことです。
人の作品をコピーして「自分の作品として発表」してしまうことが問題なんです。
伝わっているでしょうか。
つまり、練習のためトレスをすることは何も問題がありません。
トレスは悪じゃない
トレスそのものは悪ではありません。
練習方法としては使えないものではありません。
特に初心者レベル、具体的には模写すらもぐちゃぐちゃになってしまう超初心者であれば、トレスは意味があります。
超初心者でもなぞって描けば実力を遥かに超えた線画が描けます。
これは「絵を描くこと」へのモチベーションが上がりますし、絵を描く経験が増えてくれば「線の強弱」も意識できるようになります。
さらに、ある程度の知識を持っていれば「作者はこの線に何の意味を持たせようとしたか」がわかります。
「お手本を見る」ということはどのレベルでも必須の行為です。
そして「見る」よりも「実際に描く」という行動のほうが効果が高いのは言うまでもありません。
ということで、トレスは「練習方法」としては悪ではありません。
巷で言われる「トレスは無意味」は、ささいなことで「絶対」だとか「してはいけない」といった強烈な言葉を使う人たちか、そもそも試したことのない方の勘違いです。
もちろん、トレスだけで神絵師にはなれません。
トレスで鍛えられるのはイラストを描く技術の極一部です。
だからトレスだけでなく他の練習も併せてやっていく必要があります。
トレスが効果的な絵描きレベル
最も効果が高いのはやはり初心者です。
技術も経験も足りない状態でオリジナルの絵を描くと悲惨なことになります。
模写をしてみても、似てないどころかそもそも人体が歪んで目も当てられないことになります。
このレベルであっても、トレスならかなりお手本に近い絵が描けます。
ちなみにこの段階の初心者の中には線をまっすぐ描くことができない人が多いため、トレスをしているのに本物とかなり違うレベルだったりします。
初級者から中級者がトレス練習で意識すべきこと
線がある程度まっすぐ描けるようになり初心者を抜け初級者になったあたりから中級者になっていく過程で意識すべきは「線の強弱」です。
もちろん模写やオリジナルの絵でも意識し始めるべき段階ですが、絵というのはとても多くのことを考えて描かなければなりません。
初級者クラスでは得た知識を使いこなすのも苦労するため、線の強弱だけを練習するのであればトレスのようにお手本と同じところに同じ強弱で描く練習が効果的です。
丸、四角練習
トレスは基礎練習です。
硬派な人たちの中には、絵を描く前に大小さまざま丸と四角を描くという準備運動をする人がいます。
私も毎回1時間やっていた時期がありました。
ただし、この準備運動には大きな問題があります。
それは「つまらない」ということです。
「練習はつまらないのが当然」というイニシエの思考をそのまま実行できる人は問題ありません。
それはすばらしいことなのでぜひ丸と四角を描いてください。
絵の技術が足りていない中級者以下の人の中には、オリジナルの絵を描いている際にもうまくいかずにモチベーションが削られる人がいると思います。
そういう方は、スタート時点で丸と四角を描いてモチベーションが下がったところからスタートするのは愚策です。
好きな絵・描きたい絵をトレスして意図する通りに線を引く練習する方法ならモチベーションが下がりにくいのではないでしょうか。
中級者のトレス練習も無意味ではない
ある程度オリジナルの絵も描ける段階では、トレス練習の恩恵を感じにくくなります。
それでも、トレス元の作者が何を考えて描いているのかを意識しながら描けば、見ているだけでは気付きにくかったことにも気付けたりします。
私はよく「トレス元の作者になりきって自分(技術が低い人)に説明する」というロールプレイをします。
もちろん実際に描いている(トレスしている)のは私であり、作者の意図を完璧に理解することはできません。
でもロールプレイとはいえ「誰かに説明する」という行為をしているため「黙ってなんとなくなぞる」ということが減ります。
「全ての線に意図がある」という強い信念を持ち、説明する側に立つという役を演じることで成長が見込めます。
(美術的)解剖学のような骨・筋肉の知識を持っていると、その知識が線画に(つまり技術に)結びつく説明ができることがあります。
モチベーション管理
イラスト初心者が辞めていく最大の理由(というかほぼ唯一の理由)はモチベーションの低下です。
がんばってもうまく描けず、練習も面倒に感じ、いつしかペンを握る回数も減り始めます。
だったらトレスでもなんでも、モチベーションが上がることをしましょう。
トレスは外部に発表できないため「承認欲求を満たす」という意味でのモチベーション管理には一切使えません。
ですが、「自分もこんな神絵を描きたい」という絵を描くことそのものの欲求は満たすことができます。
もちろん、トレスをすれば全絵描きがモチベを上げられるとは言いません。
もしあなたがトレスをしてもモチベーションが上がらないのなら、この方法は向いていないのかもしれません。
私は一言も「トレスをやらないやつはバカ」とも「トレスですぐに神絵師になれる」とも言っていません。
強制していませんので、あなたに適した方法を探してください。
最後に
トレスは悪ではありません。
あくまで「トレスした絵を自分のものだとして発表してしまうこと」が悪なんです。
だからあの人やあの人は間違ったことをしています。
私はあの人もあの人もあの人もあの人も一切擁護しません。
トレスは練習方法・モチベーション管理方法としては優秀です。
初心者・初級者・中級者あたりまで、描く側のレベルと意識によって様々なことが学べます。
最後にもう一度言いますが、トレス「だけ」で上達するとは言っていません。
というか、イラストを描き始めた人は言われるまでもなくご存知だとは思いますが、「何か一つの練習」だけでは上達できません。
トレスも練習方法の一種です。
ある程度の技術があれば美術的な解剖学(骨・筋肉)などの知識が欲しくなるでしょう。
線画だけでなく塗りの知識も欲しくなるでしょう。
さらには見る側の感情を揺さぶるために構図の知識も欲しくなってくるはずです。
ちなみに、意識して「必要になる」ではなく「欲しくなる」という表現を使っています。
「必要だから嫌々やる」ではなく「それが描けるようになりたいから楽しんで知識を集める」であって欲しいと思います。